奇術
冬の子がいびつに凍った階段をみて二段抜きで世界へ入る
いちまいの哀しみ羽織る手品師にタネも仕掛けも戯けのうちと
てのひらと同じぐらいに不確かな表情「きみは今日も見えない」
ここにきて双子は眠る これ以上続かぬ宴 つがいの死骸
ぼこぼこ
すぐに消え吐き尽くせない白い息 大学ノートの冷たい自白
「朝だからこれで歌えば?」鈍重なファズのひずみに霜の降りけむ
変えられぬ星のかたちと千本の針をのみこむ嘘に微笑を
今きっとこのへんを流れているはずと指さす耳朶に水の原形
ぼこぼこと泡でつづる詩 ストローの吸うとこよそれ吐くとこじゃない
靴ひも
スコップを引きずる音の午前五時 世界を端から刈る人もおり
みずみずしい犬 失望という失望の限りを尽くして靴ひもを解く
草臥れた笑顔ばかりがうっかりと静けさを捕る執拗な庭
五指のいとなみ
歌姫は寝言から病む純真になるための勉強として
無言より生まれる歌詞は詩にならず寂しき文字を呼吸するキイ
寥々と五指のいとなみ 視線だけ外した先に暮れ残る耳朶
泣き叫び怒り狂って耐え忍びアドレッサンスなバグになる貝
木立まで
出鱈目な雪かも知れぬ木立まで無限の細部を奏でる音は
コーラスはデコボコ道に運ばれるギターケースと妊婦の悲鳴
眼の中に映る眼の中に映る眼の中に映る眼の中に映る
眼球を煮詰めた嘘から腐乱してゆく雨のレプリカ雪のレプリカ
ひんやりと眠る僕らのため白き夜は水鉄砲で十字架を撃つ
偶像
ビッグバンから寝目覚めてまばたきの合間に映る森が燃えてる
夢がまだ背骨を通過するまえに白目で歌えビーユアフレンド
横滑りする偶像はポケットに青く染まったまぶたを入れて