秋の生贄

またこんど海で会おうよ幸福と生まれなかった子供を連れて 自転車のカゴで枯れ葉を受けとめてあかるい街がしずむ血のうみ 「ふっかつのじゅもん」で呪われた俺「ゆうしゃ」再来に祝福はない 見納めの非常階段踊り場に踊らぬ心置きざりにした もどしてと初期…

劣化の夏

大丈夫、もう、ダイジョウブ。神という記号のように劣化すること それきっと大きくなったらふにゃふにゃのペラペラになるプロペラになる

映像と自害の春

からっぽの容器がいつしか張りつめてひびいる きみは笑うばかりで この自由 不自由ゆえにすれ違う 自転車のベル祝福のごと 息切れて登りつめたる12階新米屋上マニアのわれは ひだり目がフィルムの裂け目 鮮明に とぎれ ゆく 春 痛み なく と も

壊れやすい頭骨

異世界の穴に潜ったひとごろし二十一世紀の空もまた青 憂鬱な朝日で踊ろう 子供かな子供じゃないよオバケだよ マリファナは死んでもやらんと紫のフランクザッパ原理主義者は 確実に失ってきたくらがりを ああ また君の背で思い出す 焦点を合わせるように眠る…

弔い

でもきっと同じではない弟を失った手の変則調弦 弔いもFに溶け出すそれだけが音かも知れない音を探りて 何度でも聴かせてもらうこの身体かつて満たした虹色の水

共同回線

あの遠きビルへ帰ろう太陽の残響を聴く夕暮れ族の背 たんたんとカスタネットの音ひびく地下また地下を叩けばめぐる火 凡庸な非凡さつなぎ書き残すご機嫌斜めの共同回線

かみのくに

はつらつとした嘘をつけきみの出すあざやかな舌シンジツの色 隙をみて光合成をするようなスパゲッティも伸びる太陽 暮れてゆく集団の唄、神のくに、日の丸ひらひら、上の句に戻る

奇術

冬の子がいびつに凍った階段をみて二段抜きで世界へ入る いちまいの哀しみ羽織る手品師にタネも仕掛けも戯けのうちと てのひらと同じぐらいに不確かな表情「きみは今日も見えない」 ここにきて双子は眠る これ以上続かぬ宴 つがいの死骸

ぼこぼこ

すぐに消え吐き尽くせない白い息 大学ノートの冷たい自白 「朝だからこれで歌えば?」鈍重なファズのひずみに霜の降りけむ 変えられぬ星のかたちと千本の針をのみこむ嘘に微笑を 今きっとこのへんを流れているはずと指さす耳朶に水の原形 ぼこぼこと泡でつづ…

靴ひも

スコップを引きずる音の午前五時 世界を端から刈る人もおりみずみずしい犬 失望という失望の限りを尽くして靴ひもを解く草臥れた笑顔ばかりがうっかりと静けさを捕る執拗な庭

五指のいとなみ

歌姫は寝言から病む純真になるための勉強として無言より生まれる歌詞は詩にならず寂しき文字を呼吸するキイ寥々と五指のいとなみ 視線だけ外した先に暮れ残る耳朶泣き叫び怒り狂って耐え忍びアドレッサンスなバグになる貝

木立まで

出鱈目な雪かも知れぬ木立まで無限の細部を奏でる音はコーラスはデコボコ道に運ばれるギターケースと妊婦の悲鳴眼の中に映る眼の中に映る眼の中に映る眼の中に映る眼球を煮詰めた嘘から腐乱してゆく雨のレプリカ雪のレプリカひんやりと眠る僕らのため白き夜…

偶像

ビッグバンから寝目覚めてまばたきの合間に映る森が燃えてる夢がまだ背骨を通過するまえに白目で歌えビーユアフレンド横滑りする偶像はポケットに青く染まったまぶたを入れて

鶴の群れ 細ながい首刎ねまわり荒くれものの描く文字まばたきで球体の夢払いのけどこまでも上がる架空の音階調弦はしないままでいいなんて雨が降るのを知ってたように

暖めたベランダの手すりもやがて冷え触れられない日は飛び越えられずとれかけたママチャリのカゴきしきしと喜んでいた喜んでいた

水たまり

負の種を蒔けば枯野に湯気立てて立ちション数人めがね曇らせどこにでも曇り空を見つけます交通費込み時給120円から矮小に光る自動販売機より出でし星の名はセブンスター

禁煙

恐るべき煙の向こうで裏返る笑顔の引用 灰皿はおまえ

ドリル

きりきりと工事現場に鳴く秋の虫と電気ドリルの情事

無灯火で雌伏の森を過ぎる時 見てはいけないむき出しの月

耀い

われもいま苦きひかりを見つめおり若き光のむすびほどきつ

ナイフ

新品のナイフを持ってゆっくりと 緩い坂道 くだる早朝

銀色の腕がそこらの壁から生えて ココデオワリと手話で教えて

「いまここが宇宙の中心!」地球の日本のエゾのテントで

JUDO

こいびとに祈るフランス柔道家の赤い畳で絞められる夢

屋上犬

ビニールに興奮するなよ屋上犬 非常階段降りてく日常

くちぶえ

風のない夏の深夜は口笛のまたきて三角さよなら四角

花火

胸に咲く打ち上げ花火「あの夏」が「この夏」になる合図のごとし

月とライオン

ぐしょ濡れて 猫蹴るドラム パスタ食う 肩にしベースの 重かりし夜

ベース

流れ去る 景色を集めて ふるさと日帰り 曇り空まで響け低音

沖縄土産

沖縄の 黒いカステラ キーホルダー 過去の隣人 訃報と共に